地域社会の外の大学や研究機関からやってきて研究を行う「訪問型研究者」は、これまでも地域社会における環境問題の解決に役立つ多様な知識を生産してきました。訪問型の研究者は、地域社会の自然環境にかかわる伝統や文化、地域に固有の問題状況、地域の未来に対する責任を共有するわけではなく、予定された研究期間が終了すれば地域社会とのかかわりは薄れます。訪問型研究者が体現する「普遍的知識」は、そのままでは地域に固有の問題解決に活用されにくいことが多いでしょう。
レジデント型研究機関の研究者は、地域社会の一員として生活しながら、専門家として科学知の生産と地域に固有の伝統的知識・技術や価値観との融合を促進します。同時に、ステークホルダーの一員として地域社会の未来に対する責任を共有し、生活者として地域環境に対する誇りと愛着を体現して、地域社会の意思決定に関与します。長期的な視野に立って地道に地域の自然環境と生態系サービスをモニターするのにも最適です。しかし、レジデント型研究機関だけで地域社会の中で生起するさまざまな分野の問題すべてに対応することは困難であり、多様な分野の訪問型研究者との補完的な協働が不可欠です。
地域社会の多様なステークホルダーが自ら環境問題にかかわる専門的な調査を行う市民調査は、地域社会に固有の問題構造を反映した知識生産のあり方として、また、長期間にわたるモニタリングを継続できる手法として、ますます重要性を増しています。しかし、市民調査の主体が地域環境の保全と地域社会の持続的発展のための順応管理のプロセスを設計し、管理していくだけの高度な専門性を獲得することは困難です。
レジデント型研究機関、訪問型研究者、市民調査の実施主体などが相互作用しながら、地域社会の多様なステークホルダーと協働して環境問題の解決に向けた知識生産を行うことによって、科学者コミュニティの研究スタイルが問題解決型へと変容することを促すことができます。
|