地球環境問題の解決には、足元の地域社会から着実な成果を積み上げていくボトムアップのアプローチが重要です。地域社会は多様な利害関係が錯綜する複雑系であり、科学的な将来予測が不確実なことが普通です。したがって、地域社会の未来を左右する環境問題への取り組みにおいては、多様なステークホルダーの合意形成のもとに順応管理を行うことが必要です。また、地域社会が抱える環境問題はそれぞれの地域に固有の性質を持つため、地域固有の要素を踏まえた科学研究によって生産される説得力のある知識基盤が不可欠です。
しかし、さまざまな科学的解決策が提示されても地域社会によって活用されず、意思決定が混迷するという問題が顕在化しています。従来は、このような事態の原因は地域社会の成員の科学リテラシーの不足に求められてきました。しかし、実際には、科学的知識生産が地域社会の在来の意思決定システムや価値観、在地の知識の体系と乖離した状態で行われ、普遍性が強調されるあまり地域社会の実情に合った知識生産が阻害されていることが、より根本的な原因と思われます。 |